遂行機能を楽しく鍛える:計画・実行遊びで脳を元気に
日々の生活で、「あれ、何をしようとしていたんだっけ」「段取りがうまくいかないな」と感じることはありませんか。物忘れとは少し違う、こうした「計画を立てて物事をスムーズに進める力」に関わるのが、脳の重要な機能の一つである「遂行機能」です。
遂行機能は、目標を設定し、計画を立て、それを実行に移し、結果を評価するといった一連の思考プロセスを司ります。この機能が円滑に働くことで、私たちは目的を持って行動し、問題を解決し、状況に合わせて柔軟に対応することができます。
年齢とともに、この遂行機能にも緩やかな変化が見られることがあります。しかし、適切な刺激を与えることで、その機能を維持・向上させることが期待できます。難しい訓練ではなく、楽しみながら遂行機能を活性化させる方法として、「計画を立てて実行する遊び」がおすすめです。
この記事では、遂行機能とは何かを改めて確認し、具体的な計画・実行遊びのアイデアとその認知機能への効果をご紹介します。
遂行機能とは? 日常生活での役割
遂行機能は、脳の司令塔とも呼ばれる前頭葉、特に前頭前野が担う高次な認知機能です。主に以下の4つのステップで成り立っています。
- 目標設定: 何を達成したいのか、具体的なゴールを定める。
- 計画立案: 目標達成のために、どのような手順で進めるかを考える。
- 実行: 計画に基づき、実際に行動する。
- 評価・修正: 実行の結果を振り返り、計画通りに進んだか、改善点は何かを考え、必要に応じて軌道修正する。
例えば、「友人とランチに行く」という一つの行動をとるにも、遂行機能が働いています。 * 目標設定:「友人とランチを楽しむ」 * 計画立案:誰と、いつ、どこで会うか、お店はどこにするか、予約は必要か、どうやって行くか、何を話そうかなどを考える。 * 実行:約束の時間に出かけ、友人と会い、食事をする。 * 評価・修正:楽しかったか、次に会うならどうするかなどを考える。
遂行機能がスムーズに働いていると、意欲的に新しいことに挑戦したり、複数のことを同時に処理したり、予期せぬ出来事にも冷静に対処したりすることが容易になります。
楽しみながら遂行機能を鍛える「計画・実行遊び」アイデア
遂行機能を活性化するためには、目標設定から実行、評価までの一連のプロセスを意識的に行うことが有効です。ここでは、楽しみながら取り組める具体的なアイデアをいくつかご紹介します。
1. ミニ旅行計画
大がかりな旅行でなくても構いません。日帰りのバスツアー、近所の公園や美術館、少し足を延ばした隣町の散策など、現実的に実行可能な範囲で計画を立ててみましょう。
- 遊び方:
- 行きたい場所ややりたいこと(目標)を決める。
- 目的地までの交通手段、所要時間、費用、立ち寄りたい場所、休憩場所などを調べる(情報収集・計画立案)。インターネットの地図サイトや交通情報サイト、ガイドブックなどを活用するのも良いでしょう。
- 旅行当日を迎えるまでに必要な準備(持ち物リスト作成など)を行う(計画立案・準備)。
- 実際に計画通りに行動してみる(実行)。
- 帰宅後、楽しかったこと、大変だったこと、計画通りにいかなかった点などを振り返る(評価・修正)。
- 一人でできるか: 一人でも十分に楽しめます。
- 複数人で楽しめるか: 家族や友人と一緒に行き先や計画を話し合うのも楽しい共同作業になります。
- デジタルかアナログか: 情報収集はインターネットで、計画書はノートに手書きでなど、デジタルとアナログを組み合わせて楽しめます。
- 認知機能への効果:
- 目標設定: 行きたい場所を決める意欲や目的意識。
- 情報収集・整理: 必要な情報を集め、整理し、理解する力。
- 計画立案: 複数の選択肢の中から最適なものを選び、手順を組み立てる論理的思考力。
- 判断力・意思決定: 調べた情報をもとに、どのルートで行くか、どこに立ち寄るかなどを決める力。
- 遂行機能: 計画通りに行動する実行力と、予期せぬ事態に対応する柔軟性。
- 記憶力: 調べた情報や旅の記憶を定着させる。
2. 新しい趣味・学びの計画
以前から興味があったことや、新しく挑戦してみたいことについて、学ぶ計画を立ててみましょう。語学、楽器演奏、絵画、歴史、プログラミングなど、ジャンルは問いません。
- 遊び方:
- 何を学びたいか(目標)を具体的に決める。
- 学ぶための手段(書籍、オンライン講座、地域の教室、通信教育など)を調べる(情報収集・計画立案)。
- 無理のない範囲で、いつ、どのくらいの時間学ぶか、どのような教材を使うかなどの学習計画を立てる(計画立案)。
- 計画に沿って学習を進める(実行)。
- 定期的に学習の進捗を振り返り、計画を見直す(評価・修正)。
- 一人でできるか: 一人でじっくり取り組めます。
- 複数人で楽しめるか: 同じ趣味を持つ仲間と情報交換したり、一緒に学んだりすることも励みになります。
- デジタルかアナログか: オンライン講座や学習アプリなどデジタルツールも豊富にありますし、書籍やノートを使ったアナログな方法でも可能です。
- 認知機能への効果:
- 目標設定: 学びたいという意欲の維持。
- 情報収集・整理: 学習方法や教材に関する情報を集め、比較検討する力。
- 計画立案: 継続的に学習するためのスケジュール管理能力。
- 記憶力・学習能力: 新しい知識やスキルを習得する過程そのもの。
- 遂行機能: 計画通りに学習を進める自己管理能力。
3. 小さなイベント・活動の企画
家族の誕生日会、友人とのランチ会、地域での小さなボランティア活動、自宅での読書会など、身近なイベントや活動を企画してみましょう。
- 遊び方:
- どのようなイベントにしたいか、誰を呼ぶか(目標設定)を決める。
- 開催日時、場所、内容(食事、ゲーム、会話など)、必要な準備(料理のメニュー、招待状作成、会場設営など)を具体的に考える(計画立案)。
- 参加者に連絡を取り、確認する(実行の一部、コミュニケーション)。
- 計画に沿って準備を進め、当日を迎える(実行)。
- イベント後、参加者の反応や自分の満足度を振り返り、次回の参考にする(評価・修正)。
- 一人でできるか: 企画立案自体は一人でも可能ですが、実行には他者との協力が必要な場合が多いです。
- 複数人で楽しめるか: 家族や友人と役割分担して企画・準備を進めるのは、協力とコミュニケーションの良い機会になります。
- デジタルかアナログか: 連絡手段(電話、メール、SNSなど)や情報共有の方法(LINEグループ、共有メモアプリなど)でデジタルを活用できます。
- 認知機能への効果:
- 目標設定: イベントを成功させたいという目的意識。
- 計画立案: 複数のタスクを整理し、優先順位をつけ、段取りを考える力。
- コミュニケーション能力: 他者と連携し、情報をやり取りする。
- 判断力・問題解決: 予期せぬ問題に対応し、代替案を考える。
- 遂行機能: 計画通りに準備を進め、イベントを滞りなく進行させる。
- 空間認識能力: 会場の設営などを考える際に役立つ場合があります。
4. 日常の小さな計画ゲーム
日常生活の中にも、遂行機能を鍛える機会はたくさんあります。少し意識を変えて、ゲーム感覚で計画・実行を取り入れてみましょう。
- 遊び方:
- 献立計画: 1週間分の食事の献立を考え、買い物リストを作成する。冷蔵庫にあるもの、栄養バランス、費用などを考慮に入れる。
- 部屋の片付け計画: 片付けたい場所(目標)を決め、どこから手をつけるか、何を捨てるか、何を移動するかなどの手順を考える。制限時間を設けるのも良いでしょう。
- 特別な日の準備: 年賀状作成、季節の飾り付け、贈答品の準備など、期日までに完了するための計画を立てて実行する。
- 一人でできるか: 日常的なことなので一人で気軽に取り組めます。
- 複数人で楽しめるか: 家族で役割分担したり、一緒に話し合ったりしながら進めることもできます。
- デジタルかアナログか: 献立管理アプリやTo-Doリストアプリなどのデジタルツールも便利ですが、手帳や付箋を使ったアナログな方法も集中力を高めるのに役立ちます。
- 認知機能への効果:
- 計画立案: 日常業務を効率的に進めるための段取り力。
- 整理整頓能力: 情報を整理し、物事を分類する力。
- 判断力: 優先順位をつけたり、取捨選択したりする。
- 遂行機能: 決めたことを実行に移し、完了させる。
- 注意力: 細かい部分に気を配り、ミスを防ぐ。
計画・実行遊びが脳を活性化するメカニズム
これらの計画・実行遊びが認知機能、特に遂行機能に良い影響を与えるのは、以下のような理由が考えられます。
- 前頭前野の活性化: 目標設定、計画立案、実行、評価というプロセスは、脳の前頭前野を特に強く刺激します。この領域は、思考、判断、意思決定、注意力、記憶のコントロールなど、多くの高次認知機能に関わっています。
- 複数の脳領域の連携: 計画を立てる際には、記憶(過去の経験)、言語(思考をまとめる)、空間認識(地図を見るなど)、計算(予算)など、様々な脳領域が同時に働きます。これにより、脳全体のネットワークが活性化されます。
- ドーパミンの分泌: 目標を設定し、計画を実行し、達成感を味わう過程で、脳内でドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されることがあります。これは学習意欲や集中力を高め、脳の活性化を促すと考えられています。
- 情報の整理と構造化: 複雑なタスクを分解し、手順を追って考えることは、脳内で情報を整理し、構造化する練習になります。これは思考力を深めることに繋がります。
- 柔軟性の向上: 計画通りに進まなかった時に、状況に合わせて対応を修正することは、脳の柔軟性を鍛える機会となります。
実践のヒントと継続のメリット
計画・実行遊びを始めるにあたって、いくつかのヒントがあります。
- 小さなことから始める: 最初から完璧な計画を目指す必要はありません。まずは「明日の午前中にポストまで散歩に行く」という小さな目標と計画から始めてみましょう。
- 無理のない範囲で: 達成できそうな、かつ少しだけ挑戦が必要な目標を選ぶと、適度な刺激になります。
- 記録をつけてみる: 計画したこと、実行したこと、感じたことなどを簡単なメモに残すと、振り返りがしやすくなります。
- ツールを活用する: 紙とペン、カレンダー、To-Doリストアプリ、ノートアプリなど、自分が使いやすいツールを見つけて活用しましょう。
- 達成感を味わう: 計画通りにできたこと、新しい発見があったことなど、小さな成功を意識して褒めてあげることで、継続するモチベーションに繋がります。
- 結果にこだわりすぎない: 計画通りに進まなくても落ち込む必要はありません。計画を立てたこと、実行しようとしたこと自体が脳への良い刺激です。
計画・実行遊びを習慣にすることで、遂行機能だけでなく、日常生活における段取り力や問題解決能力の向上も期待できます。また、「これをやってみよう」という前向きな気持ちは、日々の生活にハリと潤いをもたらし、心の健康にも良い影響を与えるでしょう。
まとめ
遂行機能は、私たちが目的を持って行動し、日常生活をスムーズに送るために不可欠な認知機能です。年齢とともに遂行機能の変化を感じることがあっても、計画を立てて実行するという遊びを通じて、楽しみながらその機能を維持・向上させることが可能です。
ミニ旅行計画、新しい学びの計画、イベント企画、日常の小さな計画ゲームなど、様々な方法があります。一人でじっくり取り組むことも、家族や友人と一緒に協力することもできます。
今日から一つでも、「これをやってみよう」と目標を設定し、小さな計画を立てて実行してみてはいかがでしょうか。楽しみながら脳を活性化させ、イキイキとした毎日を送りましょう。