記憶力と判断力を磨く:身の回りの整理・仕分け遊びのすすめ
年齢を重ねるにつれて、物の置き場所を忘れてしまったり、書類を整理するのが億劫になったりすることがあるかもしれません。こうした変化は誰にでも起こりうる自然なことですが、「もしかして」と不安を感じることもあるかと存じます。
しかし、こうした身の回りの整理や片付けを、義務や作業としてではなく、「遊び」として捉え直してみませんか。実は、整理や仕分けといった活動には、私たちの脳の様々な機能に良い刺激を与える要素がたくさん詰まっています。この記事では、身の回りの整理・仕分けを楽しみながら行い、記憶力や判断力をはじめとする認知機能の維持・向上に繋げる具体的な方法をご紹介します。
なぜ整理・仕分けが認知機能に良い刺激を与えるのか
整理・仕分けという行為は、一見単純な作業に見えるかもしれません。しかし、そこには脳の複数の領域を同時に使う、非常に複雑なプロセスが含まれています。
- 記憶力: どこに何があるか、どのくらいの量があるかといった現状を把握し、過去にそれらをどのように扱っていたかを思い出します。また、新しく分類した物の「定位置」を覚えることも記憶力のトレーニングになります。
- 判断力と意思決定: 何を残し、何を処分するか。どのように分類するのが最も効率的か。優先順位をどうつけるか。これらの問いに答えを出すためには、一つずつ判断を下す必要があります。この判断のプロセスは、脳の前頭葉にある「意思決定」に関わる領域を活性化させます。
- 遂行機能: 整理という目標を設定し、どのような手順で、どれくらいの時間で、どこから始めるかといった計画を立て、それを実行に移す力です。これは脳の「遂行機能」と呼ばれる重要な認知機能です。
- 注意力と集中力: 物の種類や状態を見分け、細かい文字を読んだり、一つ一つのアイテムに注意を向けたりする必要があります。これにより、注意を集中し、維持する能力が養われます。
- 空間認識能力: どのように物を配置すれば限られたスペースに効率よく収まるか、引き出しの中でどのように区分けするかなどを考える際に、空間を認識し操作する能力を使います。
このように、整理・仕分けは脳全体を使う活動であり、楽しみながら取り組むことで、認知機能の維持・向上に繋がる可能性を秘めているのです。
具体的な整理・仕分け遊びのアイデア
さあ、実際に身の回りのものを「遊び」の感覚で整理・仕分けしてみましょう。ここでは、いくつかの具体的なアイデアをご紹介します。
1. 小物ケースの中を「宝箱」に変える遊び
- どんな遊び? 引き出しの中や小物入れに入っている細々としたものを全て出し、種類や用途別に分類し、美しく収め直す遊びです。使う頻度、色、形などで分類するルールを自分で決めてみましょう。
- 準備するもの: 中身を出すためのトレイや布、分類するための小さな箱や仕切り、必要であればラベルシールやペン。
- 遊び方:
- 対象となる小物入れ(例: 文房具引き出し、裁縫箱、薬箱)を一つ決めます。
- 中身を全てトレイなどに出します。
- 一つ一つのアイテムを確認し、「使うもの」「使わないもの」「別の場所にあるべきもの」などに分けます。
- 「使うもの」をさらに「ペン類」「ハサミ・カッター類」「クリップ・ホチキス針類」のように、自分なりに定めたルールで分類します。
- 分類したものを、使いやすいようにケースの中に収め直します。小さな箱や仕切りを使うと、より整理しやすくなります。
- 必要であれば、箱や引き出しにラベルを貼って、何が入っているか分かりやすくします。
- 認知機能への効果: アイテムの確認(注意力)、分類ルールの決定と適用(判断力・思考力)、物の定位置を覚える(記憶力)、限られたスペースに収める(空間認識能力・問題解決能力)。
- 一人でも複数人でも: 一人で集中して取り組むのも良いですし、家族や友人と「これは何に使うものだったかしら」「こんなものが出てきたわね」と会話しながら行うのも楽しいでしょう。
2. 思い出の写真・手紙を「物語」に整理する遊び
- どんな遊び? 大切な写真や手紙を手に取り、写っている人や場所、当時の出来事を思い出しながら、テーマ別や年代別に分類し、アルバムや箱に整理する遊びです。
- 準備するもの: 写真や手紙、アルバム、写真整理用の箱、インデックスカード、ペン、必要であればスキャナーやパソコン。
- 遊び方:
- 整理したい写真や手紙の束を用意します。
- 一枚一枚手に取り、思い出に浸りながら、写っている人(家族、友人など)、場所(旅行先、自宅)、出来事(イベント、日常)などで分類していきます。
- 年代が分かるものは、年代順に並べてみるのも良いでしょう。
- 分類したものを、アルバムに貼ったり、テーマ別に箱にまとめたりします。
- 写真の裏やアルバムの余白に、日付や写っている人の名前、当時のエピソードなどを書き添えると、さらに記憶が定着しやすくなります。
- デジタル化してパソコンで整理することも、新しいスキルを学ぶ機会になります。
- 認知機能への効果: 過去の出来事を思い出す(エピソード記憶)、写っているものを識別する(視覚認知・注意力)、分類ルールを決める(判断力)、当時の感情や出来事を言葉にする(言語能力)、デジタル整理の場合は新しいツールの使い方を学ぶ(学習能力)。
- 一人でも複数人でも: 一人でじっくり思い出に浸るのも心穏やかな時間になります。家族や友人と一緒に行えば、互いの記憶を補い合い、会話も弾み、楽しさが一層深まります。
3. 書類を「情報ライブラリー」に整える遊び
- どんな遊び? 溜まってしまいがちな公共料金の明細、保険の書類、医療関連の書類などを、後で必要になった時にすぐに見つけられるように、種類別に分類してファイルに綴じる遊びです。
- 準備するもの: クリアファイル、ファイルボックス、インデックスシート、パンチ、ホチキス、ペン。デジタルで管理する場合はスキャナーやパソコン、フォルダ作成機能を使います。
- 遊び方:
- 対象となる書類の束を用意します。
- 一枚ずつ確認し、「保管が必要なもの」と「不要なもの」に分けます。不要なものは個人情報に注意して処分します。
- 「保管が必要なもの」を、「医療」「税金」「保険」「公共料金」「保証書」などのカテゴリに分類します。
- カテゴリごとにクリアファイルに入れたり、ファイルボックスに綴じたりします。
- ファイルやボックスにインデックスを付けて、何が入っているか一目で分かるようにします。
- デジタルで管理する場合は、スキャンしてPDFファイルにし、パソコン内でフォルダ分けして保存します。
- 認知機能への効果: 書類の内容を理解する(読解力・理解力)、重要度を判断する(判断力)、分類ルールを決める(思考力)、探しやすくなるように計画を立てる(遂行機能)、分類した書類の場所を覚える(記憶力)。
- 一人でも複数人でも: 書類の内容はプライベートなものが多いので、一人で集中して行うのが基本ですが、難しければ信頼できる家族にサポートを頼むのも良いでしょう。
整理・仕分け遊びを楽しく続けるヒント
- 完璧を目指さない: 一気に全部やろうとせず、引き出し一つ、棚一段から始めるなど、小さな範囲から取り組みましょう。無理のない範囲で続けることが大切です。
- 「ついで」を意識する: 何かを探しているついでに、その場所を少しだけ整理するなど、日常生活の中に自然に取り入れてみましょう。
- 達成感を味わう: 整理が終わった場所を見たり、物がすぐに見つかるようになったりすると、気持ちがスッキリし、達成感を得られます。この感覚が次へのモチベーションに繋がります。
- 環境を整える: 収納用品やファイルボックスなどを少し工夫すると、整理が楽しくなったり、続けやすくなったりすることがあります。お気に入りのアイテムを見つけてみるのも良いでしょう。
- 会話を楽しむ: 家族や友人と一緒に整理する際は、「これ、いつの写真だっけ?」「これ、懐かしいね」など、会話を楽しみながら進めましょう。会話は脳を活性化する素晴らしい活動です。
まとめ
身の回りの整理や仕分けは、単に物理的な空間を片付けるだけでなく、脳に多角的な刺激を与えることができる「認知機能アップ遊び」です。物の確認、分類、判断、計画、実行といった一連のプロセスが、記憶力、判断力、遂行機能、注意力、空間認識能力など、様々な認知機能の維持・向上に繋がります。
完璧を求めすぎず、ご自身のペースで、楽しみながら取り組んでみてください。整理された快適な空間で過ごす時間は、心にもゆとりをもたらし、脳の健康にもきっと良い影響を与えてくれるはずです。ぜひ、今日から身の回りの「整理・仕分け遊び」を始めてみませんか。