聴く、歌う、奏でる楽しみ:音楽活動が脳に良い理由と実践方法
私たちの生活に深く根ざしている音楽は、ただ聴いて楽しむだけでなく、私たちの脳にも様々な良い影響を与える可能性があることが分かっています。特に、年齢を重ねるにつれて、記憶力や思考力といった認知機能の維持に関心をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
認知機能を高めるための活動は、難しい訓練ばかりではありません。日々の生活の中で、心から楽しみながらできることもたくさんあります。その一つが、音楽を取り入れた活動です。音楽は、私たちの感情に働きかけるだけでなく、脳の様々な領域を活性化することが期待できます。
この記事では、音楽がなぜ私たちの脳に良い影響を与えるのか、そして、今日からでも手軽に始められる音楽を活用した認知機能アップのための実践方法をご紹介します。
音楽が脳に働きかけるメカニズム
なぜ音楽が脳に良いと言われるのでしょうか。音楽を聴いたり、演奏したりする際には、脳の多くの部分が同時に活動するため、脳全体が良い刺激を受けると考えられています。
- 聴覚野: 音そのものを認識します。
- 辺縁系: 音楽によって喚起される感情(喜び、懐かしさなど)を処理します。
- 海馬: 音楽と関連付けられた記憶を呼び起こしたり、新しい音楽や歌詞を覚えたりする際に重要な役割を果たします。
- 運動野: リズムに合わせて手拍子をしたり、体を揺らしたり、楽器を演奏したりする際に活動します。
- 前頭前野: 音楽の構造を理解したり、演奏を計画・実行したり、歌詞の意味を考えたりするなど、思考や判断、実行に関わります。
このように、音楽を聴く、歌う、演奏するなど、どのように音楽と関わるかによって、脳の様々な部分が連携して働くのです。特に、複数の感覚や運動を同時に使う活動は、脳の広範囲を刺激し、神経回路の活性化につながる可能性があります。
認知機能アップにつながる具体的な音楽活動
では、具体的にどのような音楽活動が認知機能に良い影響をもたらす可能性があるのでしょうか。ここでは、手軽に始められるものから少し本格的なものまで、いくつかのアイデアをご紹介します。
1. 音楽鑑賞を工夫する
ただ好きな音楽をBGMとして流すだけでなく、少し意識して聴いてみましょう。
- 準備するもの: 音楽再生機器(スマートフォン、CDプレーヤー、ラジオなど)
- 方法:
- 集中して聴く: 歌詞の意味をじっくり考えてみたり、楽器の音色に耳を澄ませてみたりします。普段聴かないジャンルにも挑戦してみるのも良いでしょう。
- 昔の音楽を聴く: 若い頃によく聴いた音楽は、当時の記憶や感情を鮮やかに呼び起こすことがあります。これは、記憶を司る脳の領域を活性化することに繋がります。
- 曲に合わせて体を動かす: リズムに合わせて手拍子をしたり、足踏みをしたり、無理のない範囲で軽い体操をしたりします。
- 一人でできるか/複数で楽しめるか: 主に一人で手軽にできますが、家族や友人と一緒にコンサートやライブ映像を観るのも良いでしょう。
- デジタルかアナログか: CDやレコード(アナログ)でも、ストリーミングサービスやYouTube(デジタル)でも可能です。
- 期待できる効果: 記憶力の活性化、感情の安定、注意力の向上、聴覚機能の維持。
2. 歌うことを楽しむ
大きな声で歌うことは、ストレス解消になるだけでなく、脳にも良い刺激を与えます。
- 準備するもの: 歌詞カード、カラオケ機器(任意)
- 方法:
- 好きな歌を歌う: 昔覚えた歌でも、最近の歌でも、好きな歌を声に出して歌ってみましょう。歌詞を思い出すことは記憶の訓練になります。
- 鼻歌やハミング: 場所を選ばず、いつでも手軽にできます。
- カラオケに行く: 声を出すこと自体が気分転換になります。人前で歌うことは適度な緊張感と達成感を与えます。
- 合唱に参加する: 他の人と声を合わせるには、自分のパートを覚えたり、周りの音を聴いたり、指揮を見たりと、複数の注意を払う必要があります。また、社会的な交流も生まれます。
- 一人でできるか/複数で楽しめるか: 一人でも十分に楽しめますが、カラオケや合唱は複数人での活動になります。
- デジタルかアナログか: 歌詞カードを見ながら歌う(アナログ)、カラオケアプリを使う(デジタル)など、様々な方法があります。
- 期待できる効果: 記憶力(歌詞)、言語能力、注意力の向上、感情表現、呼吸機能の維持、社会性の維持(合唱など)。
3. 楽器演奏に挑戦する
楽器を演奏することは、脳にとって非常に複雑で高度な活動であり、広範囲の脳機能を刺激することが期待できます。
- 準備するもの: 楽器(ウクレレ、ハーモニカ、キーボードなど手軽なものが始めやすいかもしれません)、楽譜や教則本(任意)
- 方法:
- 手軽な楽器から始める: 昔少しだけ触ったことがある楽器や、手軽に始められる楽器(例:ウクレレ、ハーモニカ、カリンバなど)を選んでみましょう。
- 楽譜に挑戦する: 楽譜を読むことは、視覚情報から音をイメージし、それを指先の動きに変換するという高度な認知処理を伴います。
- 耳コピーに挑戦する: 聴いた音を覚えて再現しようとすることは、聴覚的な記憶と再現能力を鍛えます。
- 音楽教室やオンラインレッスンを受ける: 新しいことを学ぶ意欲が高まり、継続のモチベーションにもなります。
- 一人でできるか/複数で楽しめるか: 主に一人で行いますが、アンサンブル(合奏)に挑戦すれば複数人で楽しめます。
- デジタルかアナログか: 楽器自体はアナログですが、楽譜アプリやオンラインレッスンはデジタルです。
- 期待できる効果: 記憶力(楽譜、メロディー)、注意力、思考力、遂行機能(演奏の計画と実行)、運動機能(指先など)、視覚・聴覚情報の統合、新しいことを学ぶ意欲の向上。
音楽活動を続けるためのヒント
どのような活動も、継続することでより効果が期待できます。音楽活動を楽しむためのいくつかのヒントです。
- 無理なく、好きなことから: 最初から難しいことに挑戦する必要はありません。まずは好きな音楽をじっくり聴くことから始めてみましょう。
- 短い時間からでも: 毎日長時間行う必要はありません。例えば「朝食後に好きな曲を3曲聴く」「寝る前に静かな曲を聴く」など、短時間でも習慣にすることが大切です。
- 目標を持つ: 「この曲を歌えるようになりたい」「この楽器で簡単な曲を弾けるようになりたい」など、小さな目標があるとモチベーションが維持しやすくなります。
- 記録をつける: どんな曲を聴いたか、どんな練習をしたかなどを簡単なノートにつけておくと、振り返ることができて楽しいかもしれません。
- 他の活動と組み合わせる: 散歩中に音楽を聴いたり、料理をしながら歌ったりと、他の日課と組み合わせることで取り組みやすくなります。
まとめ
音楽は私たちの心に潤いを与え、日々の生活を豊かにしてくれるだけでなく、聴く、歌う、奏でるといった様々な関わり方を通じて、脳の多様な機能を刺激し、認知機能の維持・向上に繋がる可能性を秘めています。
難しい専門的な知識がなくても、高価な機材がなくても、今日から手軽に始められる音楽活動はたくさんあります。大切なのは、効果を期待しすぎるのではなく、心から「楽しい」と感じることです。
ぜひ、あなたの好きな音楽を味方につけて、心地よい音色とともに脳を活性化させてみませんか。きっと、新しい発見や楽しみが待っていることでしょう。