物語を書く、作ることが脳を活性化する理由:記憶力と想像力を育む創作のすすめ
物語を作る・書くことの楽しさと認知機能への期待
年齢を重ねるにつれて、昔の出来事が思い出せにくくなったり、新しいことを覚えるのが少し大変になったりすることに、漠然とした不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。脳の健康を保つためには、適度な刺激を与えることが大切だと言われています。特別な訓練や難しい exercise ではなく、日々の暮らしの中で楽しみながら取り組める活動があれば、より気軽に続けられるでしょう。
そこで今回ご紹介したいのが、「物語を作る・書く」という創作活動です。これは単に文章を書くという行為にとどまらず、ご自身の経験や頭の中に広がる世界を言葉にする、非常に創造的で能動的な遊びです。楽しみながら脳を活性化させる、その理由と具体的な方法を見ていきましょう。
物語を作る・書くことが認知機能に良い影響を与える理由
物語を考え、それを言葉にして書き出すというプロセスは、脳の様々な領域を同時に使う、非常に高度な認知活動です。具体的にどのような認知機能が活性化されるのか、いくつか例を挙げます。
- 記憶力(想起力): 物語の登場人物や背景、出来事などを設定する際に、過去の経験や見聞きした情報を思い出すことが必要になります。特に自伝的記憶(自分自身の経験に関する記憶)を活用することは、脳にとって良い刺激となります。
- 想像力と創造性: 存在しない人物や出来事、場所などを頭の中で生み出す力です。想像力を働かせることは、脳の柔軟性を保ち、新しいアイデアを生み出す助けになります。物語創作は、まさに想像力のトレーニングと言えるでしょう。
- 思考力・構成力: 物語に一貫性を持たせ、読者が理解しやすいように順序立てて展開を考える力です。原因と結果を結びつけたり、伏線を張ったりするなど、論理的な思考や複雑な情報を整理する能力が養われます。これは、日常生活における問題解決能力にもつながる重要な機能です。
- 言語能力: 頭の中で考えたことやイメージしたことを、適切な言葉を選び、文法に沿って文章として表現する力です。語彙力や表現力が向上し、コミュニケーション能力の維持にも良い影響が期待できます。
- 遂行機能: 物語の全体像を把握し、目標(完成)に向かって計画を立て、実行し、必要に応じて修正していく能力です。目標設定、計画、実行、評価という一連のプロセスは、脳の前頭前野を活性化させると言われています。
- 感情処理: 物語の登場人物の感情を描写したり、読者に特定の感情を抱かせるように工夫したりする中で、自分自身の感情や他者の感情について深く考える機会が生まれます。これは、感情を理解し、適切に対処する能力にも良い影響を与える可能性があります。
このように、物語の創作は、記憶、思考、言語、想像といった複数の認知機能を同時に、かつ能動的に使うため、脳全体の活性化に非常に効果的な活動と言えるのです。
さあ、始めてみましょう:具体的な物語創作のアイデア
物語創作は難しく考える必要はありません。まずは短いものから、気軽に始めてみましょう。以下にいくつかのアイデアをご紹介します。
1. 日常の小さな発見を書き留める(日記やエッセイ風)
特別な物語でなくても構いません。その日あった出来事、感じたこと、考えたことなどを自由に書き出してみましょう。
- 準備するもの: ノートや手帳、ペン。またはパソコンやタブレット。
- 遊び方: その日に印象に残ったこと、例えば散歩中に見かけた美しい花、人との会話、心に浮かんだふとした考えなどを文章にしてみます。「〜があった」「〜と感じた」のように事実を書くだけでなく、「なぜそう感じたのだろう」「もしこうだったらどうなっただろう」のように少し掘り下げて考えてみるのも良いでしょう。
- 一人で: はい、一人で手軽に始められます。
- 効果: 記憶の定着、感情の整理、言語化能力の向上、自己省察による思考力の活性化が期待できます。
2. 写真一枚から広がる物語
昔の写真や、今日撮った一枚の写真を見て、そこから想像を膨らませて物語を作ってみましょう。
- 準備するもの: 写真(紙でもデータでも可)、ノートやペン、またはパソコン。
- 遊び方: 写真に写っている人物は誰か、何をしていたのか、その前後にどんなことがあったのか、その時の気持ちは?など、写真から読み取れる情報や、そこから連想されることを自由に書き出してみます。事実に基づいても良いですし、全くのフィクションでも構いません。「この人はきっと〜と考えていたに違いない」「この後、彼らは〜へ向かった」のように、想像を加えてみましょう。
- 一人で/複数人で: 一人でも楽しめますし、家族や友人と一緒に一枚の写真を見て、それぞれが違う物語を作ってみるのも面白いでしょう。
- 効果: 記憶の想起(過去の写真の場合)、想像力・創造性の向上、観察力、論理的思考力(物語の筋道を考える)、共感力(人物の気持ちを想像する)が養われます。
3. 昔話の続きや別エンディングを考える
誰もが知っている昔話や童話、または読んだことのある小説などの続きや、もし違う選択をしていたらどうなるか、といった alternative story を考えて書き出してみます。
- 準備するもの: 昔話の本や、思い出すための時間、ノートやペン、またはパソコン。
- 遊び方: 例えば「桃太郎」なら、鬼ヶ島から帰った後、桃太郎や犬、猿、キジはどんな生活を送ったのか?鬼を退治せず、話し合いで解決したらどうなるか?など、既存の物語を起点に自由な発想で展開を考えます。
- 一人で/複数人で: 一人でも楽しめます。複数人で行う場合は、「リレー物語」として、一人が数行書き、次の人がその続きを書く、というように順番に書いていくのも面白いでしょう。
- 効果: 既存の知識を活用する記憶力、新しい展開を考える想像力・創造性、物語の整合性を保つ論理的思考力、言語表現力、複数人の場合は他者のアイデアを受け入れる柔軟性や協調性が育まれます。
4. テーマを決めて短いお話を作る
「雨の日」「お気に入りの場所」「初めての経験」など、身近なテーマを決めて、それに関連する短いお話を作ってみます。
- 準備するもの: テーマを決めるヒント(リストなど)、ノートやペン、またはパソコン。
- 遊び方: 選んだテーマから連想される単語やイメージをいくつか書き出し、それらをつなぎ合わせて短い物語を構成します。登場人物は自分自身でも、架空の人物でも構いません。起承転結を意識してみたり、あえて脈絡のないシュールな話にしてみたり、自由に楽しんでみましょう。
- 一人で/複数人で: 一人でも複数人でも楽しめます。複数人の場合は、お互いの作品を読み合うのも良い刺激になります。
- 効果: 連想力、思考力、構成力、言語化能力、語彙力、想像力・創造性の向上に繋がります。
継続するためのヒントと広がる可能性
物語創作を続ける上で大切なのは、「楽しむこと」です。上手く書こう、人に評価されようと気負う必要はありません。まずはご自身が書いていて面白いと感じるか、書きたいという気持ちになれるかを大切にしてください。
- 完璧を目指さない: 最初から長い物語を書こうとせず、短い文章や断片的なメモから始めても構いません。誤字脱字を気にしすぎる必要もありません。
- 隙間時間を活用する: 思いついた時にすぐに書き留められるよう、小さなメモ帳やスマートフォンのメモ機能を活用するのも良いでしょう。
- 誰かに読んでもらう: もし抵抗がなければ、家族や気の置けない友人に読んでもらい、感想を聞いてみるのも励みになります。無理強いはせず、自然な形で機会があれば試してみてください。
- 発表の場を探す: 地域によっては、高齢者向けの文芸サークルや、作品を発表できる機会があるかもしれません。そうした場に参加することも、継続のモチベーションに繋がり、新たな交流も生まれる可能性があります。
- デジタルツールも活用: パソコンやタブレットを使えば、文字の修正が容易で、書いたものを保存・管理しやすいという利点があります。もし興味があれば、試してみるのも良いでしょう。
ご自身のペースで、気楽に続けることが何よりも重要です。書いた物語は、ご自身の経験や内面を振り返る貴重な記録にもなります。
まとめ
「物語を作る・書く」という創作活動は、特別な才能が必要なことではありません。誰でも気軽に始められ、記憶力、想像力、思考力、言語能力など、様々な認知機能に良い刺激を与え、脳の活性化に繋がる可能性を秘めた素晴らしい遊びです。
過去を振り返ることから、未来を想像することまで、ペンやキーボード一つで無限の世界を旅することができます。ぜひ、あなただけの物語を紡ぎ始めてみませんか。楽しみながら脳を使い、心の豊かな時間を過ごしましょう。