言葉と情景を楽しむ:俳句・短歌創作が脳に良い理由
日々の暮らしの中で、ふと目にした美しい景色、心に浮かんだ思い、季節の移ろいなど、五感を通して感じることはたくさんあります。こうした感覚を言葉にすることで、脳が心地よい刺激を受け、活性化に繋がることをご存知でしょうか。
年齢を重ねるにつれて、少しずつ物忘れが気になるという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、認知機能は、適切な刺激を与えることで、その維持や向上を目指すことができます。難しい訓練ではなく、楽しみながら日々の生活に取り入れられる活動はたくさんあります。今回は、言葉と情景を楽しむ「俳句・短歌創作」が、どのように脳を元気にするのか、そしてどのように楽しめるのかをご紹介します。
俳句・短歌創作が認知機能に良い理由
俳句は五七五、短歌は五七五七七という、限られた音数の中に自分の心や情景を込める日本の短い詩です。この創作活動は、楽しみながら脳に多様な刺激を与え、認知機能の様々な側面に良い影響をもたらすと考えられています。
- 言語能力・語彙力の向上: 自分の思いや見たものを表現するために、適切な言葉を探し、選び出す作業が必要です。これにより、語彙力が増えたり、言葉の使い方が洗練されたりします。また、音数に合わせて言葉を並べることは、言語的なリズム感や構造を意識することに繋がり、言語能力全体を活性化します。
- 思考力・遂行機能の活性化: 五七五や五七五七七という制約の中で、最も伝えたいことを効果的に表現するには、様々な言葉の組み合わせを考え、選び、調整するという思考プロセスが必要です。これは、目標を設定し(表現したい情景や思い)、計画を立て(どのような言葉を使うか)、実行し(実際に言葉を並べる)、評価・修正する(推敲する)という遂行機能を総合的に使う訓練になります。
- 記憶力の刺激: 特に俳句においては季語が重要な要素となります。季語を選ぶ際には、季節ごとの季語を思い出す、あるいは歳時記などで調べる必要があり、記憶力の維持・向上に繋がります。また、過去の経験や情景を思い出して詠むことは、エピソード記憶の活性化になります。
- 観察力・五感の活性化: 句や歌を詠むためには、身の回りの世界を注意深く観察し、五感で感じ取ることが大切です。「見る」「聞く」「触れる」「味わう」「香る」といった感覚を通して得た情報を言葉にする訓練は、感覚と脳を結びつける回路を活性化させます。
- 創造力と感性の刺激: 同じ情景を見ても、人によって感じ方や表現方法は異なります。自分ならではの視点や言葉で表現しようとすることは、創造力や感性を豊かにします。
- 集中力と忍耐力: 限られた音数の中で言葉を練り、推敲を重ねる作業は、集中力と物事に根気強く取り組む忍耐力を養います。
- 達成感と精神的な活力: 一句・一首が完成した時の達成感は、脳に心地よい刺激を与え、自己肯定感を高め、日々の生活に張りをもたらします。
俳句・短歌創作を始めるには
俳句や短歌の創作は、特別な道具や場所を必要とせず、気軽に始めることができます。
一人で楽しむ
最も手軽な方法です。
- 題材を見つける: 窓から見える景色、散歩中の発見、季節の花や生き物、日々の食事、家族との出来事など、身近なところにたくさんの題材があります。五感で感じたこと、心に浮かんだことを大切にしましょう。
- 言葉を探す: 季語を使いたい場合は、歳時記や季語手帳、スマートフォンの季語検索アプリなどを活用すると便利です。情景や思いに合う言葉をいくつか考え、音数に合わせて組み合わせてみましょう。
- 書いてみる: 紙とペンはもちろん、スマートフォンのメモ機能やパソコンの文章作成ソフトでも構いません。まずは思いつくままに書いてみて、後から推敲するのも良いでしょう。
- 声に出してみる: 書いた句や歌を声に出して読んでみましょう。音数やリズム、言葉の響きを確認することで、より良い表現が見つかることがあります。
複数人で楽しむ
誰かと一緒に創作したり、鑑賞し合ったりすることで、新たな発見があったり、楽しさが広がったりします。
- 家族や友人と: 身近な人と一緒に同じテーマで詠み合ったり、お互いの作品に感想を伝え合ったりしてみましょう。褒め合うことはもちろん、どのように感じたかを伝え合うことで、創作意欲が増したり、表現の幅が広がったりします。
- 句会・歌会に参加する: 地域やカルチャーセンターなどで開催されている句会や歌会に参加するのも良い方法です。他の人の作品に触れることで刺激を受け、自分の創作の参考になります。最近ではオンラインで開催されているものもあり、自宅から気軽に参加できます。
- 通信やオンライン投稿: 俳句誌や新聞の投稿欄、インターネット上の俳句・短歌投稿サイトなどで作品を発表してみるのも、励みになります。他の人の作品を読むことも、勉強になります。
デジタルツールを活用する
スマートフォンやパソコンは、創作活動の便利なツールになります。
- メモアプリ: 思いついた言葉や情景をすぐに記録できます。
- 季語検索アプリ・オンライン歳時記: 手軽に季語を調べられます。
- 投稿サイト・SNS: 作品を発表したり、他の人の作品に触れたりできます。
- 音声入力: 声に出して詠んだものをテキストに変換することも可能です。
創作を続けるためのヒント
俳句や短歌創作は、続けることで楽しさが増し、より脳への良い刺激も継続できます。
- 完璧を目指さない: 最初から素晴らしい作品を作ろうと気負う必要はありません。まずは五七五や五七五七七の形に、自分の素直な気持ちや見たものを込めてみることから始めましょう。
- 「とりあえず一句(一首)」の気持ちで: 毎日必ず詠む、と決めると負担になることもあります。気が向いた時、心動かされた時に「とりあえず一句詠んでみよう」というくらいの軽い気持ちで取り組むのが長続きの秘訣です。
- 読むことも大切に: 著名な歌人や俳人の作品に触れることは、言葉の選び方や表現の仕方を学ぶ上で非常に有益です。様々な作品を読むことで、自分の感性も磨かれます。
- 書くことを習慣に: 寝る前にその日の出来事を詠んでみる、朝起きて窓の外の景色を詠んでみるなど、生活の中に書く時間を取り入れると習慣化しやすくなります。
まとめ
俳句・短歌創作は、言葉と情景を紡ぐ知的で感性豊かな遊びです。五七五、五七五七七という短い形式の中に自分の世界を表現する過程で、言語能力、思考力、記憶力、観察力、創造力など、様々な認知機能が刺激されます。
一人で静かに楽しむことも、誰かと一緒に交流しながら楽しむことも、デジタルの力を借りて活動の幅を広げることも可能です。難しく考えず、まずは心に浮かんだ言葉や情景を大切に、一句・一首詠んでみてはいかがでしょうか。日々の暮らしの中に、言葉を紡ぐ楽しみを取り入れて、心と脳を豊かに活性化させましょう。