五感をみがいて脳を活性化:見る・聞く・触れる・味わう・香るを楽しむ遊び
五感をみがいて脳を活性化:見る・聞く・触れる・味わう・香るを楽しむ遊び
年齢を重ねるとともに、物忘れが増えたり、以前のようにぱっと頭が働かなくなったと感じたりすることがあるかもしれません。こうした認知機能に関する不安は、多くの方が抱えるものです。しかし、脳は何歳からでも活性化させることが可能です。特別な訓練だけでなく、日々の暮らしの中で楽しみながら脳を刺激する工夫を取り入れることが大切です。
本記事では、私たちの身の回りにある「五感」に意識を向けることで、脳を活性化させる方法をご紹介します。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という五感は、脳が外界の情報を得るための入り口です。これらの感覚を意識的に使うことは、脳の様々な領域を刺激し、認知機能の維持・向上に繋がることが期待できます。
五感を研ぎ澄ませる遊びは、準備に手間がかからず、一人でもご家族やご友人と一緒でも楽しめます。ぜひ、今日から取り入れられるアイデアを見つけてみてください。
五感と脳の密接な関係
私たちが五感を通して受け取った情報は、脳の感覚野で処理され、その後、記憶や感情、思考に関わる様々な領域に送られます。
- 視覚: 脳の後頭葉にある視覚野で処理され、物の形や色、動きを認識します。空間認識能力や注意力を養うのに役立ちます。
- 聴覚: 脳の側頭葉にある聴覚野で処理され、音の高低やリズム、言葉を理解します。言語能力や記憶力に関わります。
- 触覚: 脳の頭頂葉にある体性感覚野で処理され、物の感触や温度、圧力を感じ取ります。細かい手作業などと結びつくと、脳の広範な領域を活性化させます。
- 味覚: 舌で感じた情報は大脳皮質の味覚野に送られ、食べ物の味を判断します。食経験の記憶や判断力に関わります。
- 嗅覚: 鼻から入った香りの情報は、脳の嗅覚野を経由し、大脳辺縁系(記憶や感情を司る領域)に直接送られます。このため、香りは強く記憶や感情と結びつきやすく、脳の活性化に特に効果があると言われています。
このように、五感をバランス良く刺激することは、脳全体を活性化し、認知機能の様々な側面をサポートすることに繋がるのです。
五感を刺激する遊びのアイデア
それでは、具体的な遊びや活動のアイデアを見ていきましょう。
1. 視覚を刺激する遊び:細部への気づきを深める
目で見た情報を意識的に処理することは、注意力や観察力、記憶力の向上に役立ちます。
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間違い探し・変化探し:
- 遊び方: 新聞や雑誌の間違い探しを活用したり、部屋の模様替えをした後にどこが変わったかを探したりします。二人以上なら、どちらかが部屋の一部分をこっそり変え、相手に当ててもらうゲームもできます。
- 準備するもの: 新聞、雑誌、絵本、身の回りのもの。
- 一人/複数人: どちらでも可能。
- デジタル/アナログ: どちらでも可能(間違い探しアプリなどもあります)。
- 認知機能への効果: 細かい部分に注意を払う「注意力」、以前の状態を思い出す「記憶力」、変化した点を認識する「比較判断能力」を刺激します。
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写真や絵画の観察:
- 遊び方: 一枚の写真や絵をじっくり眺め、写っているもの、色、形、全体の雰囲気など、気づいたことを言葉にしてみます。見たものを覚えて後から書き出してみるのも良いでしょう。美術館や展覧会に出かけるのも効果的です。
- 準備するもの: 写真、絵画、図鑑、美術書、スマートフォンやタブレット。
- 一人/複数人: どちらでも可能。複数人なら、見たものについて話し合うことで、さらに脳が活性化されます。
- デジタル/アナログ: どちらでも可能。
- 認知機能への効果: 視覚情報を詳細に捉える「観察力」、見たものを記憶に留める「記憶力」、感じたことを言語化する「言語能力」を養います。
2. 聴覚を刺激する遊び:音の世界を広げる
音に注意を払うことは、集中力や弁別能力、記憶力に影響を与えます。
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身の回りの音を聞き分ける:
- 遊び方: 目を閉じて、聞こえてくる音に耳を澄まします。時計の秒針、外を走る車の音、鳥の鳴き声、エアコンの稼働音など、普段意識しない音を聞き分け、それが何の音かを考えます。散歩中に行うのも良いでしょう。
- 準備するもの: 特になし。静かな環境、または様々な音がする場所。
- 一人/複数人: どちらでも可能。複数人なら、聞こえた音を順番に発表し合うのも楽しいでしょう。
- デジタル/アナログ: アナログ。
- 認知機能への効果: 特定の音に焦点を当てる「集中力」、音の種類を識別する「弁別能力」、音の発生源を推測する「思考力」を鍛えます。
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ラジオドラマや音声コンテンツを聴く:
- 遊び方: ラジオドラマや朗読、ポッドキャストなどの音声コンテンツを聴きます。登場人物の声や話し方から情景を想像したり、物語の展開を追ったりします。
- 準備するもの: ラジオ、スマートフォン、タブレット、インターネット環境。
- 一人/複数人: 一人が主体となりますが、内容について話し合うことで複数人でも楽しめます。
- デジタル/アナログ: デジタルが中心ですが、古いラジオドラマの録音などアナログ媒体もあります。
- 認知機能への効果: 音声情報から内容を理解する「聴覚理解力」、頭の中で情景を描く「想像力」、物語の筋を追う「注意持続力」や「短期記憶」に良い影響が期待できます。
3. 触覚を刺激する遊び:手と脳を連携させる
手で物に触れる感覚は、脳の運動野や体性感覚野を刺激し、脳全体の活性化に繋がります。
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様々な素材に触れる:
- 遊び方: 身の回りにある布、木、金属、紙、土など、様々な素材の物を集めて、その感触(硬さ、柔らかさ、温度、表面の滑らかさ・粗さなど)を指先でじっくりと感じ取ります。目を閉じて行うと、触覚に集中できます。手芸や園芸も触覚を大いに使います。
- 準備するもの: 様々な質感の物(布切れ、木片、石、砂、粘土など)。
- 一人/複数人: どちらでも可能。複数人なら、触った物の感触を言葉で表現し合うと、さらに感覚が研ぎ澄まされます。
- デジタル/アナログ: アナログ。
- 認知機能への効果: 指先からの情報を脳で処理する「感覚統合能力」、感触の違いを識別する「弁別能力」、感じたことを表現する「言語能力」を刺激します。
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粘土細工や工作:
- 遊び方: 粘土を使って形を作ったり、紙や布など様々な材料を使って簡単な工作をしたりします。完成形をイメージし、指先を細かく動かすことが重要です。
- 準備するもの: 粘土、紙、ハサミ、のり、その他工作材料。
- 一人/複数人: どちらでも可能。
- デジタル/アナログ: アナログ。
- 認知機能への効果: 目で見たイメージを手で形にする「協調性(視覚・運動)」、計画を立てて実行する「遂行機能」、指先の細かい動きに関わる脳領域を活性化させます。
4. 味覚を刺激する遊び:味わいを深く楽しむ
食事の際に味覚を意識することは、記憶や食欲、健康にも関わります。
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「利き〇〇」を楽しむ:
- 遊び方: 数種類の同じ種類の食品(例:お茶、味噌、醤油、パンなど)を用意し、それぞれの味の違い(甘み、塩味、酸味、苦味、うまみ、風味、舌触りなど)を感じ分け、言葉で表現してみます。銘柄を隠して行うと、より集中できます。
- 準備するもの: 数種類の同じ種類の食品、紙、ペン(感想を書き出す場合)。
- 一人/複数人: どちらでも可能。複数人で行うと、それぞれの感じ方の違いを楽しむことができます。
- デジタル/アナログ: アナログ。
- 認知機能への効果: 味覚情報を詳細に分析する「弁別能力」、感じた味を記憶や過去の経験と結びつける「記憶力」、味の違いを言葉で表現する「言語能力」を刺激します。
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新しい食材や料理に挑戦する:
- 遊び方: いつもとは違う新しい食材を使ってみたり、作ったことのない料理のレシピを見ながら調理したりします。食べるだけでなく、調理過程で食材の形や色、香り、感触に触れることも五感の刺激になります。
- 準備するもの: 新しい食材、レシピ、調理器具。
- 一人/複数人: どちらでも可能。
- デジタル/アナログ: アナログ(レシピはデジタルでも可)。
- 認知機能への効果: 未経験の味覚を体験する「新しい情報処理能力」、レシピの手順を理解し実行する「遂行機能」、食材の知識を深める「学習能力」に繋がります。
5. 嗅覚を刺激する遊び:香りの世界を探求する
嗅覚は脳の記憶や感情に関わる領域と直結しており、非常に強力な脳活性化の手段となります。
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香りの種類を当てる:
- 遊び方: コーヒー豆、ハーブ、スパイス、果物の皮、石鹸、アロマオイルなど、様々な香りのするものを数種類用意します。それぞれの香りを嗅ぎ、それが何の香りかを当てたり、どんなイメージや記憶と結びつくかを考えたりします。目を閉じて行うと、嗅覚に集中できます。
- 準備するもの: 様々な香りのする物(密閉容器などに入れると良い)。
- 一人/複数人: どちらでも可能。複数人なら、クイズ形式で楽しめます。
- デジタル/アナログ: アナログ。
- 認知機能への効果: 香りの情報を識別・記憶する「嗅覚弁別能力」「記憶力」、香りと過去の経験や感情を結びつける「連想力」「エピソード記憶」を活性化します。
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アロマテラピーを取り入れる:
- 遊び方: 好みのアロマオイルを見つけて、ディフューザーで香りを拡散させたり、ハンカチに垂らして香りを嗅いだりします。香りの種類によって期待される効果(リラックス、リフレッシュなど)を調べながら楽しむのも良いでしょう。
- 準備するもの: アロマオイル、ディフューザーやアロマポット、ハンカチなど。
- 一人/複数人: 主に一人で楽しむ活動ですが、一緒に香りを選んだり、感想を共有したりすることで複数人でも楽しめます。
- デジタル/アナログ: アナログ。
- 認知機能への効果: 香りによるリラックス効果は脳のストレス軽減に繋がり、全体的な機能維持に寄与する可能性があります。また、特定の香りを意識的に嗅ぐことで注意力を養い、香りの情報を記憶する練習になります。
日常生活で五感をみがくヒント
特別な遊びだけでなく、日々の暮らしの中でも五感を意識する習慣をつけることが大切です。
- 散歩中に五感を意識する: 歩きながら、目に入る景色(空の色、木の葉の形)を観察し、聞こえてくる音(風の音、足音、鳥の鳴き声)に耳を澄ませ、肌で感じる空気の感触(温度、湿度、風)、季節の香り(花の香り、土の匂い)を感じ取ってみましょう。
- 食事の際に意識する: 食べる前に料理の色や盛り付けを目で楽しみ、立ち上る香りを嗅ぎ、口に入れたときの舌触りや温度を感じ、味を構成する要素(甘み、酸味など)を意識しながらゆっくりと味わいます。
- 家事の中で意識する: 洗濯物をたたむ際に布の感触を確かめたり、掃除の際に洗剤の香りを意識したり、食器洗いの際にお湯の温度や泡の感触を感じたりと、当たり前の動作の中で感覚に注意を向けてみましょう。
まとめ:五感を楽しむことが脳を活性化する第一歩
五感を意識的に使うことは、脳の様々な領域を活性化し、認知機能の維持・向上に繋がる手軽で効果的な方法です。見る、聞く、触れる、味わう、香るという日々の体験に少し注意を向けるだけで、私たちの脳は新しい刺激を受け取ります。
今回ご紹介した遊びや活動は、あくまでアイデアの一部です。ご自身の興味やライフスタイルに合わせて、無理なく楽しみながら続けられることを見つけるのが何より大切です。五感を楽しむことは、暮らしをより豊かにすることでもあります。ぜひ、日常の中に「五感をみがく時間」を取り入れて、心身ともに健康な毎日を送りましょう。